旅行に行っていた妻を、駅まで迎えに行った。
私、「・・・」
妻、「・・・」
結婚して20年も経つと、「旅行はどうだった?」、「楽しかったわよ」、など、夫婦の会話は無い。
妻が持っている紙袋から何か臭うため、おそらく紙袋の中には私に買って来た駅弁が入っているのだろう。
車の中でも、夫婦の会話はない。
面白いラジオがやっていても、興味の無い妻はラジオを切る。
「聞いてるだろ!」、と言える気力は、中年の私には残ってない。
マンションに着くと、守衛さんは、私より先に妻に敬礼をする。
守衛さんが、地下駐車場に通じるバリケードを開けてくれて、私が車をゆっくり走らせるのは、私達夫婦が乗っている車は車高が低いから。
ゆっくり走らせても、車高の低い車は、段差で擦る。
妻、「鬱陶しい車だわ」
私、「・・・」
妻、「毎回毎回、擦って、バカじゃないの?」
私、「・・・」
段差で車高の低い車が擦るのは、妻を乗せている時だけ。他の者を乗せている時に、段差で擦ったことは無い。
車から降り、部屋に直接通じるエレベーターに向かっていると、見慣れないエレベーターボーイが「お部屋のカギが届いてます」。
私、「???」
妻、「誰が、うちの部屋のカギを届けてくれたの?」
エレベーターボーイ、「女性の方です」
妻、「どんな女性?」
エレベーターボーイ、「若く美しいお方です」
妻、「あっそう」
私、「・・・」
エレベーターの中で沈黙したのは、エレベーターボーイにカギを届けた若く美しいお方は私の彼女だから。
それに気付いている妻は、私に買って来ただろう駅弁を、飼っている犬のエサにした。