30年以上前、イトーヨーカドー傘下にあるスーパーに勤務していた。
年始の吹雪日だったと記憶している。
吹雪にも関わらず、年始の買い物をするお客さんが見受けられた。
カウンターで備品発注の作業をしていると、防寒着と帽子に雪を散らしたお客さんが二人現れた。
初老のご婦人とその娘と思われる二人連れだった。
「いらしゃいませ」と型通りあいさつをして、接客に入った。
お客さんは、車のドアが開かなくなってと、話を切り出した。
朝から厳しい寒さで吹雪だったので、ドアが氷つき開かないのだと解釈した。
「昨夜、新年会で駐車場に放置してしまったのでしょうか?お湯を用意しましょう」と
2階にある職員食堂厨房に連絡し、お湯の手配を連絡しようとした。
が、お客さんは首を振り否定する。
鍵がかかっては開かないと、言う。
そこで、漸く車中に鍵をおいたままロックしてしまったと、気が付いた。
改めて確認して、車のドアロックトラブルだと判明した。
お客さん達は、どうしたら良いかわからず店のカウンターにやってきたのである。
「車を買ったお店かお家に合鍵があると思いますので連絡なさいますか?」と、提案した。
「お父さんに知られると、怒られる」と相談する二人。
その様子を見て、「鍵穴に鍵を入れ回して開けるタイプなら、開けた事があります」とつい口を出してしまった。
二人は驚き、顔を見合わせ、是非やってもらいたいと頼んできた。
「自分の車しか開けた事がありません。他の車を開けられるかわかりませんが…」
と、弁解し針金ハンガーを用意する。
吹雪は納まらず、駐車場は視界が10メートル位しか効かない。
針金ハンガーを慎重に差し込み、開閉を担う部分を探す。
荒れ模様の中で期待を込め、お客さん達は私を注目する。
しかし、それ程待つ事はなかった。10分もかからず、ドアは解除された。
お客さんは安堵した顔でお礼を口にする。
何度も何度も頭を下げてお礼をいうお客さんを見送り、店へ戻る。
厳しい寒さにも関わらず、良かったとほっこりしたエピソードだった